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2012年6月26日 (火)

【小説】園長の苦悩と期待(あの笑顔シリーズ2)

今日、また小さな女の子を引き取る事になった。
まだ3才と言うのにこの子は大人へ甘える事を諦めるような目をしていて私の顔を見ても何の反応も見せない。
笑うと可愛いだろうと思われる大きな目をした子にいつかまた笑顔を取り戻せるだろうか。
引き取るたびに心をかすめる不安。それより大きな期待を私はいつも抱いている

完全なるネグレクト。
母親はシングルマザーで最初はがんばって育児をしていたらしいそれでも精神的に追い詰められとうとう子どもがいるアパートには帰ってこなくなった。
突然帰ってこなくなった母親をずっと待ち続けたのだろう。
近所の人からの通報で警察とともに向かった部屋には横たわった菜々美がいた。

その横には誕生日プレゼントと聞かされている小さなクマのぬいぐるみがあった。
しばらく入院することになりその間に母親を探して貰ったが母親は育児ができる状態では無かった。

そして私の園に仲間が一人増えた。

初めて園に連れてきた時菜々美は何も話そうとはしなかった。
何もかもを諦めてしまったような瞳。
クマのぬいぐるみをしっかりと抱きしめ緊張からか表情がいつも以上に固い。
その瞳を見た小学6年生の優すぐるがいち早く反応したこの子は聡い子だ。

本能的に相手の欲しているものを見抜く。 それを本人は自覚がない。
お仕着せの感じを相手に与えないので小さな子達から慕われている。
優はその日から菜々美の世話を焼くようになった。

今の菜々美には優の優しさが必要なのだ。
嫌がる事もせず、かといって喜んでいる訳でもない表情で優の傍にいる。
小さな心は深く傷ついている。 なかなか笑ってくれない菜々美に優は根気よくその日学校であった話をし一緒にご飯を食べたりお風呂へ入れたりと可愛がっている。

微笑ましいと思うが痛々しさを拭いきれないのも本心だお互いの傷を癒すように一緒にいるのだから。
菜々美がここへきてから半年が過ぎようとしていた。

一匹の子猫が庭に迷い込んで来た。
それを菜々美と一緒に見つけた時菜々美は子猫をみて不思議そうな顔をして私を見上げたのだ。
そうか。子猫に興味があるんだね。少しずつ意思表示が出来るようになってきていたのは知っていたがここまで興味を惹かれている菜々美を見るのは初めてだった。
子猫のそばにそっと近づいた。最初は私の後ろから子猫を見ていたが、何もしない事が分かったのか自分から恐る恐る手をのばした。
「菜々美。子猫だよ。きっと菜々美より小さいよ。お母さんと離れて迷子になってしまったのかもしれない。しばらく傍にいてやれるかい。
そう聞くと菜々美は小さく頷いた。

菜々美をしばらく子猫と二人きりにして様子をみることにした。
物陰から見ていると優が学校から帰って菜々美を探していたのだろう。
私に話しかけそうになるのを手で制し、静かに菜々美の様子を見るように即した。
優は驚いたような顔をして菜々美をしばらく見ていたが目から大きな涙を流し始めた。

自分は子猫ほどの力が無いと私に訴えるが、私はそうは思っていない。
菜々美が子猫に愛情を注ぐ事が出来るようになったのは優の存在が大きい。
何の見返りも無い自分への愛情を菜々美は一心に受けていたのだから。
でもあえて優には言わないでおこう。
もう少し成長した時、本人がきっと気付くはずだ。
それにまだまだ菜々美には優が必要だろう。優と一緒にいる菜々美はとても柔らかい表情をしている。
そのことを優は気付いてないようだが、少しずつ菜々美は優に心を開きかけている証拠だ。
優は自分にも笑って貰えるようになりたいと泣いているがその望みはきっとそんなに遠くない時期に叶えられると私は思っている。
君たちはこれからもずっと他の子達より荒波を生き抜かなくてはいけない。
その力を少しでもたくさんつけて欲しい。

私も期待しているのだよ、君たちの未知への可能性を。(2011.3.4)

*********
園長の視点から。
次は菜々美視点からで最後です。

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