【小説】とある休日3
今自分は夢の中にいる。そんな自覚のある夢をたびたび見る。
広大な芝が敷き詰められた向こう側に背の高い二本の木が見える。
日に日にその木に近づいているように思う。気のせいかもしれない。
そしてまた同じ夢を今も見ている。ただ今までと違うのは遠くにあった木が目の前にある事だ。近くで見る二本の木は何だか懐かしさを覚える。幼い頃を思い出すような感覚。
木に両手を広げ抱きついた。安心感に満たされ目を瞑った。
突然目の前が真っ赤に染まった。昼間だと思っていた景色は一変し夕方になっていた。
顔に射しこんでくる夕日。真っ赤に熟れたトマトの様な大きな夕日だ。
気付けば二本の木はまた遠くにある。小さな男の子がどこからか走って来た。自分の前で立ち止まりじっと私の顔を見上げている。
何で泣いてるの?
そう聞かれて初めて自分は泣いているのだと気付いた。
黙って横に首を振る事しかできなかった。
ハイッと手渡された小さなくまのぬいぐるみ。
「これね、ボクの宝物なの。泣きたいときはこれを抱っこして我慢してるんだ」5歳くらいの子だろう。
こんなに小さな子にどんな悲しみがあるのか。
ありがとうと言う気持ちを笑いかける事で表した。
この小さな子にどこかで会った事があっただろうか。
意識の遠くで目覚まし時計の鳴っている音が聞こえた。
そろそろ起きなければと思いながらももう少しここにいたい。この子の傍に居たいと思う。
今日くらい朝寝坊したって良いじゃないか。心が和む時間をもう少し共有したい。
そんな思いをつんざく様な音で破られた。
ピンポ~ンピンポ~ンピンポンピンポンピンポ~ン♪
がばっと飛び起きてずかずかと不機嫌丸出しで玄関のドアを開けた。
「おはよ~。あら、まだ寝てたの?お寝坊さんねえ」
目の前の人物の顔をぶしつけに眺めた。
夢の中で会った子どもと同じ瞳を持った顔がそこにあった。
「子どもの頃に会った事があったのか?」そう聞くと少し目を大きくし驚いた顔をしたがすぐにいつもの笑顔になり「何か思い出した?」と聞かれた。
一体私は何を忘れているのか。
とりあえずこの事を考えるのは今はよそう。
こいつにまた休日をつぶされるのだけは阻止しなければと心の中で思うのだった。
続く…。
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これもまた三題話「トマト」「ぬいぐるみ」「朝寝坊」から作り出した話です。
4話以降からは三題話ではなくなるんですがこれまた難産でございました。
その話は次回にします。
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