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2012年8月30日 (木)

【小説】とある休日5

 定期検診。と言っても身体はいたって健康だから必要無い。
ただここの院長の部屋で少しだけ話をするだけだ。
私には両親がいないので院長に話を聞いて貰っていると父親と話をしているようで落ち着く。
難を言えば薫の父親って事だ。まあ、目を瞑ろう。
そう思いながら勝手知ったる病院の長い廊下を歩いていた。
途中ナースステーションで来院した事を告げるため寄ろうとした時看護師たちの会話が聞こえてきた。
知った名前を聞いたので思わず身を隠し盗み聞きする。

「今日ってかすみさんが来るんでしたっけ?薫さんもいつまであの人に付きっきりになってるんですか?飲みに誘ってもそのせいでいつも断られてるんですよ」
「あら、私は彼女の記憶が戻った時にパニックにならないように監視してるって聞いたけど」

そのあとは何が話されていたかは耐えられなくて逃げ帰ったため分からない。
自分が今日の検診に来なかった事を院長はどう思うのだろう。
家に帰る道すがら頭を占めるのは今聞いたばかりの「監視」と言う看護師の言葉。
そっか、あいつは監視するためにいつも私の所に来ていたのだな。
悪態をつく私を笑ってくれていたのはそういう訳だったのか。
子どもの頃から一緒にいたから気付けなかった。友人では無かったのか。
あいつと過ごす時間は嫌いではなかったのに残念だ。うん、本当に残念だ。
私は結局独りなのだ。それもきっと徐々に慣れていけばそれが普通になるはず。
だからこの胸の痛みも無くなるだろう。

今自分が住んでいる家も院長が用意してくれたものだった。
病院の敷地内に建てられた小さな平屋建ての一軒家。
どうせ使ってないから自由に使ってと言われるままにそこに住み始めたのは中学に上がる頃。最初の頃はほとんど寝に帰るだけだった。それまでは薫の家族と一緒に過ごしていた。
少しずつ一人暮らしになれるように年を重ねるごとにその与えられた部屋で過ごす時間が増えていった。
最近はどうだろう。そう言えば店を出すなんて言い出して驚いたけど結局あの話はどうなったかな。
私の反応を楽しんでいただけだったのかもしれない。
休みのたびにここへ来ては取りとめのない話をするだけで帰っていく。
あれは私を見張るためだけだなんて信じたくない。では何を信じたら良いのだろう。
何だか疲れた。何も考えたく無いし何もしたくない。
気付けばソファに座ったまま何時間もぼうっとしていた。
だけどお腹もすかないし手足も動かない。

遠くでインターフォンが鳴っている気がする。
ピンポ~ンピンポ~ンピンポンピンポンピンポ~ン♪

あぁ、またあいつが私を監視しに来たのか。
それとも院長の所へ行かなかった事を叱りに来たのか。もう私に関わる必要などないぞ。私は独りでも大丈夫だ。大丈夫だからもうここには来ないでくれ。

いやだ。私を独りになりたくない。独りは怖い。また薫の笑顔が見たいのにここは暗くて何も見えない。何も見えないんだ。静かすぎて怖いのに心地よさもどこかに感じる。
相反する感情を止められない。

「ねえ、薫。薫は私を監視するために傍に居てくれたのか?そのせいでいろんな誘いを断っていたのか。私は知らない間に縛り付けていたんだな。
ごめん。
今まで気付けずにいてごめん。何を言っても許されていたから甘えすぎていたよ。
ごめん…」うわ言のように弱弱しくそれは繰り返された。
再び支えをなくした心はただ暗闇に倒れ誰の手も届かない所にあった。

続く…。

**********
サブタイトル「傷ついた心」です。
いかがだったでしょうか。

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