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2012年9月 6日 (木)

【小説】とある休日6

 いったい何があった?

いつものように訪れた霞の部屋。インターフォンを押しても出てくる様子が無い。
今まではどんな状態でも不機嫌な顔をして出てくれていたのに。
嫌な予感がして、一度携帯に連絡を入れてみるが出る様子は無い。
緊急のために合鍵はあるけどあまり使いたくない。しかし今はそうも言っていられない気がして合鍵を使い部屋に入った。ソファでぐったりとしている霞を見つけ最初は寝ているのかと思ったが、呼吸は浅く泣いた後もある。

「どうしたの?気分でも悪いの?」と声をかけるが反応が無い。
とりあえずベッドまで運んで寝かせる。親父に連絡を入れるとすぐに診察に来てくれるという。
彼女はまた元に戻ってしまうのだろうか?やっとほころび始めた心がまた閉じてしまうのではないかと恐怖に震える。

いったい彼女に何があった?
ベッドに運ぶ時、か細い声で聞いてきた内容が気になる。久しぶりに自分の名前を呼ばれたのにうわ言の様なか細い声。
そう言えば今日は診察日。なら病院の方に顔を出したはず。親父が何かしっているかもしれない。
ピンポ~ン♪と軽快なインターフォンが鳴った。出ると往診セットを持った親父だった。
親父は軽く頷きかすみの眠る寝室へと消えた。俺はソファに座り診察が終わるのを待った。

「どうやら何かショックを受けたようだな。自己に引き籠っている。しばらく優秀な看護師に一緒に住んでもらうよ。当分の間、お前はここに来るな」そう言われても黙って引き下がれない。

「何で?俺だってここでかすみの様子を見ていたい」そう訴えるが許可は頑として出なかった。
「ベッドに運ぶ時にかすみが言ったんだ。薫は私を監視するために傍に居てくれたのか?って。どこからそんな発想するのか分からない」
「…そうか。きっとどこかでそれを感じ取ったのかもしれないな。私の所へも今日は来なかったので心配はしていたんだ」
「どこかってどこだよ。診察日なら病院に行ったはずだ。なら病院しかないじゃないか」そこまで言うと思い当たる事があったので俺は親父をそのままにナースステーションに走った。
看護師たちが挨拶をしてくるが一切無視し「今日、ここにかすみが来なかったか知りたいんだけど」と言うと来なかったと言う。
ただ廊下ですれ違った看護師もいた。ということは診察のためにここに来たけれどナースステーションに顔を出す前に何かを聞いたか見たかしたんだろう。

考え事をしていると独りのナースが「今度親睦会をする予定なんですけど薫さんも参加されませんか?」と誘ってきた。
「う~ん、今はそんな気になれないから無理だね。今度かすみと一緒にお邪魔するよ」と断ったのだがなかなか解放してくれない。
「薫さんが来てくれると盛り上がるし、かすみさん抜きでお願いしたいです。監視役も大変でしょ?」と上目づかいで誘いを掛けてくるが最後の言葉に怒りがこみ上げる。
「監視役ねえ。俺は一度もそんなこと思った事が無いけれど傍から見たらそう見える訳か。なるほど。これからはそう見えないように気をつける事にする」よっぽど怖い顔をしていたのか誘ってきたナースは顔色を変えた。
ここで何かを聞いたのだろう。もう用は済んだとばかりに彼女達に背を向けてかすみの家に向かった。部屋に入ると親父は居なくなっており代わりに母親が来ていた。
なるほど、優秀な看護師か。

「しばらくかすみちゃんと暮らすわね。あなたもそのつもりでいて頂戴。
お父さんに聞いていると思うけどかすみちゃんが私に話をしてくれるまであなたはここへ来ちゃだめよ。大丈夫。すぐに元のかすみちゃんに戻るわ」。

心強い言葉だ。
霞がこうなった原因らしき事柄を母親に話した。「そう。きっとあなたに裏切られた気持ちになったんでしょうね。可哀想に」
それだけ頼りにされていたのね、と付け加えられた。
いつも追い返そうとする瞳の奥は寂しげだった。だから強引にこの部屋に入って話をして帰った。

素直じゃないかすみ。強がってばかりで頼る事をしないかすみ。独りで懸命に生きてきたかすみ。きつい言葉を言ってくるのに本音はいつも隠していたかすみ。もっと信用してくれているかと思っていた。俺より付き合いの薄い奴の言葉を信じたかすみ。
早く戻ってこい。いつまでも待たすんじゃねえよ。
仕方なくかすみの家を後にした。

続く…。

******
サブタイトル「届かない気持ち」です。
いかがでしたでしょうか。

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