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2012年10月 1日 (月)

【小説】とある休日7(最終話)

 『それは10歳の幼い少女に突然起きた出来事。
少女は両親の自殺を目の当たりにしてしまった。それは彼女をどす黒い暗闇に落ちるには十分すぎた。
この瞬間から少女は白い天井と白い壁に囲まれた部屋の住人になり、心を閉ざしいつも傍にいた大好きな少年の声も少女には届かない。
恵まれすぎていた事に気付く事無く育った少年は途方にくれ戸惑うまま少女の傍に居る事しか出来ない。
笑顔を無くしてしまった少女に再び笑って欲しくて毎日少女の元へ訪れた。
少女が好きなお菓子を持って行ったり楽しい話を聞かせたりしたけれど何の反応も見せない少女。

そんな日が1週間続き10日続き1カ月を過ぎる頃少年は少女の元へ行けない日が訪れた。少年は思った。
きっと今日一日くらい行かなくても何も変わらない。だから無理して行かなくても良いやと。そして次の日少女の元へ訪れた時、昨日ここへ来なかった事の大きさに気付く事になった。
少女は少年の顔を見た瞬間少しだけ頬をほころばせそして寂しそうな目を見せたのは一瞬。その一瞬の表情の変化を読み取った少年は思い知らされた。この少女には自分以外に会いに来てくれる人はいない。
両親でさえも会うことは二度と無い。孤独と戦っている少女。それに引き換え自分はどうだろう。忙しいなりにも愛情を注いでくる両親を持ち、学校には友人、家に帰ればくつろげる自分の部屋だってある。少女はそれを一度に全部無くしてしまったのを知っていたはずなのに。

それなのに自分は友人と遊びに行き、ここへ来る事も面倒になり寝てしまったのは昨日の事。自分がここを訪れる事を少女はずっと待っていてくれていたに違いない。掴みかけていた手を自ら離してしまったのだ。少年は改めて思う。この少女の笑顔を取り戻すのは自分だ。そして二度と寂しそうな目をさせてはいけない。どれだけの年月がかかっても良い。
ここへ来なかった自分の愚かさを償いたい。
大好きな少女の笑顔をもう一度見たいから』
そんな二人にも平等に年月が過ぎ大人へと成長していった。

かすみが倒れてから10日経った頃母親に呼び出された。
「かすみちゃんに会わせてあげるわ。だけどあまり刺激しちゃだめよ。まだ完全には回復していないけど後はかすみちゃん自身が乗り越えないといけないのよ。30分後に戻って来るからくれぐれも逸らないでね。まずは彼女の話を最後まで聞く事。分かった?」そう念を押して霞の家を出た母親の背中を見送った。
ソファに俯き座っているかすみ。向かい側のラグに直接腰を下ろした。どう声を掛けようか迷っているとかすみから話しだした。

「子どもの頃、突然病室に居る自分に気がついたんだ。それまでは頭の中に霧がかかったみたいにはっきりしなくて怖かった。
だけど毎日欠かさずいろんな話をしに来てくれた男の子が居てね、自分でも気付かないうちにその子が訪ねてきてくれる事を楽しみにしてたみたいだ。
自分が病院のベッドの上だって気がついた日もずっとその男の子が来るのを待ってたよ。いつもは何時くらいに来てたんだろう、夕飯を食べる前だったかな後だったかななんて考えながらずっと待ってた。

でもその日、男の子が私を訪ねてくれる事は無くて、また私は置いて行かれたんだと思った。毎日来てくれていた男の子は本当は居なかったんだって。自分が見せた願望だったんだって思った。これから自分独りでどうしようって子どもながらに考えたよ。
どうしてお父さんもお母さんも私を連れて行ってくれなかったのかなって。要らない子だったのかなって。
でも次の日にその男の子が顔を見せてくれてうれしかったんだ。その男の子って薫だよね。ずっと傍に居てくれたんだよね。気付けなくてごめんね。
でも私は大丈夫だよ。もう私に関わらなくても良いよ。きっと今までずっといろいろ邪魔しちゃってたんだよね。
休みのたびに私の所に来てたんだもの。これからは自分のために休みを使ってよ。今までありがとう。疲れたから寝るね」

一方的に話しかけられ返事を聞きたくないとばかりに寝室に戻ってしまった彼女を呆然と見送る事しか出来なかった。何の言葉も掛けられない自分が情けない。
最後の方は声が震えていたのに。

「ただいま。あら?一人?」突然明るい声が背中にかかる。
「あ…疲れたから寝るって寝室に戻った」それだけ言ってこの部屋を出た。
もう一度よく考えなくては。自分はどうしたいか、どうしたら良いのかを。

それから2週間ほど経った休日にボストンバッグを持った母親が自宅に帰って来た。
驚いている俺の顔を見るなり「かすみちゃんに追い出されちゃったわ」とあっけらかんと笑顔を見せる。
一瞬何を言われているか理解出来なかったがその言葉の意味が浸透してきた時には母親は自室で荷物の整理をしていた。

「追い出されたってどういうことだ?」と聞いても「う~ん。言葉通りよ。これでも粘ったのよ。でもかすみちゃん自身が一人でも大丈夫って笑ってくれたの」
「だからって…」最後に見たかすみの顔が忘れられない。あんなにも何かに耐えるようにして今にも折れそうになっていた彼女だったのに。
知らずと下を向いて床を睨んでいた。
「もっとかすみちゃんを信じてあげなさい。あの子はあの時の小さな女の子じゃないわ。少しずつ少しずつひとり立ちしようと努力しているのよ?それを助けてあげなさい。」
俯いていた頭の向こうからそんな言葉が降ってきた。ハッとして顔をあげると真剣な目をしてこちらを向いていた母親と目があった。
「かすみちゃんはね、確かに精神的に弱い部分を持ってるわ。あんな悲しい出来事があったのだから誰だって臆病になると思うの。きっとまた身近な人を失う恐怖心を人一倍持ってると思うのよ。そんな彼女にしてあげられる事って何かしらね。可哀想と思う事?外に出さないように囲う事?違うわよね。よく考えて答えを見つけなさい。それと、今まであなたがしてきた事にもっと自信を持つことね」それだけを言うと再び荷物の整理をし始めた。
その姿をしばらく見ていたが何となく頭にかかっていた靄が晴れたような気分になり母親の部屋を後にした。
そうだ。結局は大それたことなんで出来やしない。自分の今出来る事をするしかないんだ。
かすみ本人も言っていたじゃないか。俺のために休日を使えって。
自分の休日を好きに使おう。

とある休日。とある家のインターフォンが鳴り響いていた。
ピンポ~ンピンポ~ンピンポンピンポンピンポン♪
「だーーっ!うるさいっ!近所迷惑だろ。1回鳴らせばまだ耳は達者だから聞こえると何度も言ってるだろうが!」
不機嫌丸出しの彼女の表情に安心する。
「そっちの声の方が近所迷惑よ~。それよりも天気も良いし映画でも見に行きましょうよ~。今から出るとなると先にどこかでお昼ご飯食べたほうが良いかしら。あ、それともどこか公園でも散歩する?見せたい場所があるのよねえ」と半ば強引にかすみを外に連れ出した。
「どこに行くんだ」とか「家に帰せ」とか聞こえたけれど聞こえない振りをして彼女の手を引っ張っていく。映画も散歩も外に連れ出すただの口実。
かすみの家から歩いて5分程と言う近い場所にそれはあった。
「ねえ。これ見て」と指さすは小さな空き地。
小さな雑草がたくさん生えている何の変哲も無いただの空き地を見て不思議そうにこちらを見ている。
「良く見てよ。あれよあれ」と言うとそれに向かって歩いていく彼女の後姿を見守った。
きっとまじまじとそれを見ているだろうかすみは突然背中を震わせ笑いだした。
「おまっ、これっ」と言葉にならない言葉を吐き出しながら大笑いのかすみの姿を見て久々に心からの笑顔を見る事が出来たうれしさに一瞬かける言葉を失った。ずっとこんな笑顔を見たかった。これからはいつでもこの笑顔を見せてくれるだろうと信じている。
心の中にあった硬い結び目が融けて無くなった瞬間だった。
「気に入ってくれた?」と聞くと「そうだな。相変わらずびっくり箱みたいだなあ」と涙を拭っている。「あげるわよ。それ」というと
「え?」と聞き返してくるきょとんとした顔が可愛い。
「さて。このまま帰る?それとも散歩でもする?映画も良いわよねえ。どうする?」と聞くと「近所を散歩したい」というリクエストにその場を後にした。
その空き地に真ん中には小さな木製の白い横長の看板があった。

『中々良い物を扱ってそうだな共和国建設予定地』

また今まで通りの休日が繰り返される。 了

********
完結です。
私自身いろいろありまして、、、。
PCがクラッシュしましてねえ(泣)、データーはバックアップ取ってあったから良かったけれど気力までも無くなりまして更新が遅くなりました。

最後は一番初めの三題話へと戻る形で終わらせていただきました。
最初から読んで頂いた方には感謝感謝です。
半年以上一つの作品に関わったのはこれが初めてでした。
自分自身、読み返す勇気はまだ持てずにいました。
今は、、、今も、、ですけど。。。

とある休日はこれでおしまいです。ありがとうございましたm(__)m

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